俳 句 作 品 集

 

          〜 リ ラ 香 る 〜 

  

  

   

   

   

   

   

   

                 

  

   

   

   

   

   

 

  

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   『山河』『燔祭』『俳句』『俳句とエッセイ』等の文芸誌や俳句誌に、

   1974年 〜 1983年までに発表した255句をまとめました。

   私がアメリカ・ワイオミング大学に留学したのは、1968年9月からですが、

   冒頭の「リラ香る」の句の季は、1969年6月の夏で、ララミー市制百年祭

   のパレードの時でありました。それより 1982年9月までの13年間の心の

   記録です。

   この句集は、亡き父にささげるものであります。

        〜 リ ラ 香 る 〜      

 

   < 米 国(1969〜70年) >

   リラ香る町のパレイド夜も続く

   ロッキーの樹海にかかる虹の橋

   野生ひまわり荒馬の砂塵浴び

   バッファロー群れて夏野に雨けぶる

   コロラドの樹海に流れ星一つ

   ニューヨークビルの谷間に冬の月

 

   < 父(1972年)

   父の墓夾竹桃が燃えてゐて

   記憶の父近衛兵のち竹の子育て

 

   < 英彦山神社参道(1973年)>

   木蓮の花大きくて鳥の声

   笹の葉にかたつむりいて私霞降る

 

   < 天草(1974年) >

   天草にカンナ燃えをる火の如く

 

   < 旅立ち(1975年) >

   夾竹桃燃えて居るなり旅立つ日

 

   < デンマーク(1975年) >

   海辺秋人魚姫に人の群

   万寿菊アンデルセンの像ありて

   やわらかき異国の梨に秋深し

 

   < スウェーデン(1975年) >

   北欧の鷗のさわぎ秋の暮

   北欧の鷗の声は寒気呼ぶ

   北欧の鷗が喋り木の葉散る

   スウェーデン鷗の声の夜に入る

   古代王の墳墓の岡や秋の風

   湧き水をついばむ雀秋日和

   海藻入りチーズにスウェーデンの秋

   北欧の鮭のむし焼き秋夕焼

   霧の這うストックホルムの旅夕辺

 

   < ドイツ(1975年) >

   ハンブルグ美術館外黄落期

   ゼラニウムの鉢置かれたるゲーテの家

   戦死者の墓に花輪の万寿菊

 

   < イタリア(1975年) >

   夾竹桃色錆び古代ローマ風

   夾竹桃はやも古びてローマ秋

   コロシアム捨て猫多しローマ秋

   青朝顔屋根までのびる青ナポリ

   アカシアの咲き残りたるナポリ秋

   アカシアの残花を雨の打ちつづけ

   秋雨のポンペイ遺跡森閑と

   ポンペイや森閑として秋の雨

   秋雨のポンペイ遺跡門閉ざす

   イタリアの雲は秋なるピサ斜塔

   フローレンス石像秋の雨の中

   < イギリス(1975年) >          

   秋寒やマンチェスターで宿さがし

   紫陽花は秋は錆色ウィンダーミア

   散り黄葉ふみて訪ねし旅の宿

   湖に行く道ぶなの散黄葉

   淋しさや霧かかりおる波の音

   波さわぐボート置場に猫の恋

   散り紅葉ワーズワースの村閑か

   ランカスター鐘は鳴るなり冬茜

   鐘ひびく丘に登りて冬茜

   夕焼を負ひし城跡萩の花

   霧深きロンドンに鳴く寒雀

 

   < 旅立つ日(1976年) >

   ひまわりのぐるぐる燃える旅立つ日

 

   < ハンガリー(1976年) >

   ドナウ秋遊覧船の白い波

   ドナウ河見つつ白桃食ひをはる

   白桃やドナウ河畔の古城暮れ

   河底を走る地下鉄夏の暮れ

   「カルメン」の野外劇にも霜降りる

   サルビアの赤き寺院に鳩あそぶ

   サルビアの寺院広場に鳩百羽

   城跡の十字架墓に千寿菊

 

   < 英国(1976年) >

   夏葦やグラスミア湖に野鴨浮き

   白樺の林ぬけるとヨットの帆

 

   < 山茶花(1977年) >

   山茶花や時の重さに散りにけり

   山茶花の散りたる池に雪の降る

   山茶花をつかまんばかり波迫る

 

   < 心象(1977年) >

   鶏頭をまだ炎と看る齢に居る

   菜の花に白き帆を立て紋白蝶

 

   < 筑豊風景(1977年) >

   みのり田の黄が盛りあげしボタの山

   涸滝に女学生らの声ひびく

 

   < 猫(1978年) >

   恋猫のすさまじき声雪散らす

   桃ふふむ下に遊ぶやペルシャ猫

 

   < 学会の後(1978年) >

   屋島のいか焼く煙秋の暮

 

   < 林檎(1978年) >

   青林檎子供等皓き葉を持てり

   スターキングの味さくさくと冬の夜

   冬の夜や林檎かむ子の歯の皓き

 

   < マーガレット(1978年) >

   マーガレット乙女の服の白さかな

   マーガレット聖母マリアに捧げたし

   < 紫陽花(1979年) >      

   城跡の紫陽花青の舞踏会

   紫陽花や湖前にして舞踏会

 

   < 小倉(1979年) >         

   金柑の黄に落ちつくや冬の果て

   風花や貨物列車のなほつづき

   雪柳白きはまれり母は老ゆ

   よろこべばこでまりの花白こぼす

   沈丁花何となく咲き女客

   たんぽぽのちょっとむこうに波頭

   くちなしの香の闇の中ひと思ふ

   樫の葉の音立て落ちる夏夜かな

   パン屑に光と降りて寒雀

 

   < 福岡教育大学(1979年) >

   連翹の黄の目にしみる卒業式

 

   < 筑豊(1979年) >

   すれちがひざまに香の濃き草刈り女

   コスモスやボタ山遠くして黒く

   女子大生の声のひびくや滝涸れて

 

   < 米国・シアトル(1979年) >

   シアトルの町の起伏や合歓咲ける

   合歓咲いて港祭りの町シアトル

   合歓咲いて港祭りや光る海

   合歓の花港祭りの花火かな

   フェリーボート降りたる岸辺合歓の花

 

   < タコマ富士(1979年) >

   夏雲の触れてゆくなりタコマ富士

   「ボンサイ」とヘンリィ呼びたる夏小松

   氷雪の山眼前にビール飲む

   氷雪のまぶし夏山タコマ富士

   チップモンクひょいと顔出す夏の岩

   土くれと見まちがう如き山の鳩

   夏山の岩より岩へ栗鼠はしる

   岩土の動くと見れば山鶉

   よく見れば岩下にひっそりルピナス花

   ルピナスに蝶の眠れる夏の午后

   タコマ富士麓にあふるフランス菊

   フランス菊の白花映る山の池

   ヒマラヤ杉水面に映る夏の池

   夏雲や水面に流る山の池

   氷雪の連なる峰に夏の雲

 

   < ポートランド(1979年) >

   夏野べを飾る白花クイーン・アンズ・レース

 

   < ウィスコンシン州(1979年) >

   さやさやと玉蜀黍の青葉かな

   鴨料理食べて出ずれば夏の月

 

   < パーデューキャンパス(1979年) >

   キャンパスに蝉声太き夏休み

   キャンパスの野生りんごに日は照りて

   夏休みキャンパスの中りんごうれ

   まだ行けど玉蜀黍の青葉あり

 

   < シカゴ(1979年) >

   噴水のむかふの湖にヨットの帆

   ヨットの帆遠景にしてカンナ燃ゆ

   ミシガン湖に蝶の如ヨット浮く

 

   < ボストン(1979年) >

   ボストンの風は冷えおる夏夕辺

 

   < オーストリア(1979年) >

   旅の宿ワルツききおるウィーン夏

   コーヒー飲みつつ野外オーケストラきく夏夕辺

   雪渓から流れ出でたる夏のイン河

   マドリガル夏の闇中インスブルック

   夏の雨光る弓矢やインの橋

   チェス遊びインスブルックの夏夕辺

   とねりこの赤き実に降る光の矢

   氷雪の峰遠景にとねりこの赤き夏

   ごつごつの岩肌遠く白雛菊

   シャレーの軒下炎ゼラニウム

   氷雪の山の谷間を夏の汽車

 

   < スイス(1979年) >

   アルプスや麓にひろげ白雛菊

   壁画ある家の軒下ゼラニウム

   高原の教会の鐘澄みし夏の朝

   氷雪の峰々遠く夏の湖

   氷雪と夏の湖あるルツエルン

   雁遊ぶチューリッヒ湖や青柳

   ケペル橋から糸をたれたる子等の夏

   白い波けたてるボートや夏夕辺

   汽車の中ビール飲みつつアルプス越え

   ひとり旅スイスの宿にてメロン切る

 

   < 大分(1980年) >

   元旦や朝日を受けて鷺の立つ

   白鷺の水浴びてゐる山の池

   たんぽぽをつかまむと立つ白き波

   風花の遠くに眠る由布の山

 

   < 近畿大学(1980年) >

   葉牡丹が主役工学部の花壇

 

   < 小倉(1980年) >

   パン屑に矢の如降りて寒雀

   光の矢となりて雀や梅ふふむ

   こでまりの花の白さや母老いて

   くちなしの花の匂ひて女客

   マンションのちょっとむこうに山笑ふ

   市庁舎のガラス越しなる城寒し

   山茶花のなんとなく散る寒さかな

 

   < 岩国(1980年) >

   錦帯橋渡る時にも夏の雨

   河鹿鳴く林の昼も奥暗く

   河鹿鳴く林の奥の森閑と

 

   < 城島高原(1980年) >

   舟浮ぶ湖のぐるりに笑ふ山

   紫陽花の錆色淋し夏の果て

   サルビアの赤き花もえ霧まとふ

 

   < 別府(1980年) >

   眠たげな鰐の目を打つ豪雨かな

   黄の蓮浮かべる池に夏の雨

 

   < 高崎山(1980年) >

   親猿にまきつく小猿夏の雨

 

   < 平尾台(1980年) >

   青薄揺れてカルスト台地かな

   牡鹿洞深く探りて夏忘る

   洞を出てかんかん照りの真昼間

   青薄上を飛び行く黒揚羽

 

   < 湯布院(1981年) >

   湯布院に雨の煙りて猫柳

   湯の岳庵出ずれば楮に春の雨

   由布岳も見えぬばかりに春の雨

   馬酔木咲く湯布院の町湯の匂ひ

 

   < 別府(1981年) >

   錦蛇奥に眠りて春の雨

   遊園地工事中なり春の雨

   観覧車に妻と二人の春の雨

 

   < 城島高原(1981年) >

   遊園地改修工事山笑ふ

   志高湖やくれない芽ぶく大楓

 

   < 宇佐八幡宮(1981年) >

   一位樫そびゆ頂き春の雲

   桃の花神居ます宇佐八幡宮

   妻とともに石段下りる春の森

   汽車進む十駅ほども虹動く

 

   < 小川二郎博士に(1981年) >

   葬式の境内に鳴く雀の子

   ひと逝きて夾竹桃の白揺れる

   赤蜻蛉追う女の童頰赤く

 

   < 花(1981年) >

   連翹や黄蝶のごとく枝に群れ

   玄海に桜吹きこむ嵐かな

   金魚草にとまりかねたる白き蝶

   鉄線花にほどよき光降りそそぐ

   テニスコートの歓声背にて薔薇大輪

   百日紅白あり紅あり女客

   ひっそりとひとりしずかや谷の音

   廃屋に青き朝顔這い上る

   台風の余波にあふられ夾竹桃

   垣根からのぞく朝顔秋果てて

   山茶花の花をついばむもののあり

 

   < 野辺送り(1981年) >

   紫陽花の色は一色禅の寺

   向日葵の炎と燃えて野辺送り

   向日葵や喪主は少年野辺送り

   かぁかぁ鴉ちっちっ雀盆の寺

   肉親の墓をつらねて百日紅

 

   < 母(1981年) >

   ふきをひく母の背つとに曲りゐて

   柚子くれし母の髪白き日和かな

   冬の日や母より厚き文来たる

 

   < 佐賀(1981年) >

   三千余年の楠の上なる雲の峯

   楠若葉朝日に映えて佐賀の町

   紫陽花や池面に映り水ワルツ

   堀めぐる梔子の匂い妻思う

   『次郎物語』の家のさるすべり

   明治の商家の裏庭蛇の目草

   ひたぶるに溝川照らす合歓の花

   涼しさや青き緑の夏木立

   噴水の向こうにすっくと夏木立

   キャンパスにメタセコイヤの青若葉

   夏木立牛の貫禄蛇しずか

   博物館出れば眼を射る楠若葉

   くちなしに近づけば妻匂いけり

   歴史館出れば眼を射る蛇の目草

   稚魚群るる水暖かく楠若葉

 

   < 小倉(1981年) >

   コンクリート電柱に鳴く法師蝉

 

   < 京都(1981年) >

   銀杏の葉落ちて深まる京の秋

  

   < 百万都市(1982年) >

   落ちる葉の木と木の話し星月夜

   咳々きて眠りに落ちて悪夢かな

   咳ぶきの突きあげてくる夜更けかな

   百万の都市の空間寒鴉

   レストラン出て吾ひとり冬木立

   空壜の中に降りこむ冬の雨

   光の矢大地に降り来る寒雀

 

   < 吾子(1982年) >

   冬の夜吾子の湯上がりジュース飲む

   宮まゐり吾子眠りおり花かんらん

   宮まゐり日のしずけさや梅の花

   紅梅や吾子の泣き声紅くなる

   吾子泣いて遠雷ひびき春の雨

   子に懸くる思いの色や春の虹

   エアコンに涼しき夢や吾子昼寝

 

   < 母(1982年) >

   沈丁花何となく咲き母来たる

   大都市の小庭に金柑群れてなる

   金柑を久々の母と食べておる

 

   < 送別会(1982年) >

   鳶の輪の海にはみ出し春日落つ

 

   < 姉一周忌(1982年) >

   めぐり来る姉一周忌芙蓉咲き

   向日葵のつとに首たれ姉法事

   秋桜姉一周忌に揺れてゐて

 

   < 夏木立(1982年) >

   蛇の子と遊ぶ子等居て夏木立

   向日葵の花より高き声女

 

   < 乳母車(1982年) >

   松葉牡丹ぱっちりと子は目を開く

   千日紅乳母車の子対面す

   葉鶏頭乳母車の子の初見かな

   乳母車の子に降りくる蝉しぐれ

   乳母車の児に降りかかる蝉時雨

   < 曼珠沙華(1982年) >       

   曼珠沙華道を明るく地蔵様

   畦道に曼珠沙華咲き赤とんぼ

 

   < 花(1982年) >

   むらがりし黄蝶のごとく連翹花

   濃山吹咲き残りあり夕明り

   燠のごと崩れゆくなり白牡丹

   躑躅咲く停年坂を登りつめ

   朝顔の紫たたく雨しずく

   夾竹桃揺れは台風余波のもの