俳 句 作 品 集

 

          〜 葉 桜 の 道 〜 

  

  

   

   

   

   

   

   

                 

  

   

   

   

   

   

 

  

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   1983 〜 1988年の 6年間に、『俳句とエッセイ』及び『俳句』に 載った

   計 214句をまとめました。創作時より古い時期の体験を詠んだ句もあります。

   父は 1971年に、母は 1988年に他界しましたが、父母それぞれを詠んだ句、

   どちらにも葉桜を用いたので、この句集を『 葉桜の道 』としました。

   この句集は父母と亡き友に捧げたいと思います。

        〜 葉 桜 の 道 〜          

 

   < アメリカ・ワイオミング(1969年) >

   ひまはりに砂塵濛々牛の群

 

   < アメリカ・コロラド(1969年) >

   コロラドの樹海へ落ちし流れ星

 

   < 父(1971年) >

   葉桜や近衛兵の父行きし道

   父の忌や泰山木の花天に

 

   < 岩 風 呂(1972年)>

   岩風呂に手足を張れば冬の百舌

 

   < フランス・パリ(1975年)>

   エフェル塔登る濃霧の中にして

 

   < 津和野(1982年)>

   並び合ふ家ごと木犀匂ふかな

   城跡の木々の紅葉ひとり旅

   殉教像映る小池に木の葉落つ

   

   < 女子大学の園(1982年)>    

   山茶花や女子大生の声大き

   姫林檎群がりうれて雨の中

 

   < 故 郷(1982年)>

   冬星指す父の遺せし大銀杏

   冬の夜りんごかむ児の葉の皓し

   冬湖へ白炎と化し鷺一羽

 

   < 妻(1983年)>

   春雷や妻の歯痛とかかはりて

 

   < 母(1983年)>

   柚子の香に故郷の母思ひおり

 

   < 幼 児(1983年)>

   たんぽぽや乳母車の子の輝く瞳

   梔子の匂ひにひかれ児の歩み

   梨食べる児の歯の皓し風白し

   冬の夜や児の歯の皓しりんごかむ
   < 城 野(1983年)>       

   紫陽花や子猫の遊ぶ昼下がり

   なんとなく一日過ぎて立葵

   くちなしの匂ひただよひ女客

   赤蜻蛉夕焼消えぬ間に消えし

   山茶花の生垣ありて鳩遊ぶ

 

   < 教育大学キャンパス(1983年)>

   野良猫の走り込みたる姫女苑

   国語科の教棟近く櫨紅葉

 

   < 大 和 路(1983年)>

   黄金の稲田をたどり法隆寺

   大和路の家ごと匂ふ金木犀

   

   < 城 野 風 景(1984年)>

   寒菊や雌鳥三羽音立てず

   雪の中残菊の黄の目を射たり

   初春や雀の影は矢の如く

   紫木蓮子猫と遊ぶ子等の居て

   紫の花の海へ海へと蝶ヨット

 

   < 日 田 彦 山 線(1984年)>

   無人駅より人消えて雪の峯

 

   < 芥 子(1984年)>

   崩れては燠の如なる芥子の花

   ジェット機の大音響や芥子の花

   芥子崩る地獄の底の炎えてをり

 

   < 姉 に(1984年)>

   薔薇崩る姉の最期を見る如く

 

   < 児 童(1984年)>

   ブランコの児にたっぷりと薔薇匂ふ

   金魚草ほきほき咲きて児らはしゃぐ

   父と児にしばらく降れよ蝉時雨

   児が眠り獲りたる蟬をにがしやる

 

   < 北 九 州 市(1984年)>

   をだまきの蔓を離れて白き月

   製鉄所夾竹桃に囲まれて

   製鉄所の生垣赤き夾竹桃

   雨降れば国電遅れ立葵

 

   < 叔父へのレクイエム(1984年)>

   通夜に行く蟬なきだして居たりけり

   叔父のはや六七日忌曼珠沙華

   露草や太古ながらの朝の露

 

   < 北九州市中央図書館(1984年)>

   図書館を出づればまぶし蔦青葉

   つたの葉の紅葉しつくす茜雲

   図書館を出づればまぶし蔦紅葉

   < 筑 豊 風 景(1984年)>     

   黄金に麦熟れその果てボタの山

   蓑虫や今日も揺られて吊るされて

 

   < 眼(1984年)>

   眼を病めば鵙金色の日に向ふ

   眼を病めば冬の木立に雨の音

 

   < 城 山 風 景(1984年)>

   白き蝶キャンパス深く迷ふ秋

   城山のまんだらなせる冬紅葉

 

   < 豊 後 高 田(1984年)>

   カンナいま花終りたる野辺送り

   つくつくのはげしく鳴ける野辺送り

 

   < 小 倉 城 内(1984年)>

   菊花展終りて大地銀杏散る

 

   < 正 月(1985年)>

   干柿を食うて元旦年をとる

   男手に赤児を渡し初詣

 

   < 親 子(1985年)>

   親子とは指までも似てあかぎれて

   霜焼の手に積む積木きりもなや

   雪の夜児に民話『てぶくろ』よ

   夜泣き児に起こされ聴きし冬の雨

   行春やはいはいの嬰児歩き出す

   シャボン玉大きくふくれ空映る

   ベゴニアにそっと触れをる児は一つ

   向日葵の花より児等の声高し

 

   < 叔 父(1985年)>

   叔父逝きしのちの光陰冬霞

   山茶花の白の一色禅の寺

   百日紅白咲く叔父の一周忌

 

   < 母(1985年)>

   老いの母のいかに在します花柊

   菜の花や白髪の母の手をとりて

 

   < 小 倉 風 景(1985年)>

   山茶花の赤より赤へ雀飛ぶ

   電車待つ間土筆のはかまはぐ

   木蓮の白たわわにて鳥騒ぐ

   夾竹桃木材市場木の臭い

   城見えて春川静か海に入る

   雨の後塀にもたれし花ユッカ

   サルビアの炎ひろごる昼下り

   恋雀寺の読経を憚らず

   電車来てコスモスの花揺れ動く

 

   < 図 書 館(1985年)>

   図書館を出づればまぶし蔦若葉

 

   < 泰 山 木(1985年)>

   父の忌や泰山木の花天を向く

   泰山木離れて花弁太きかな

 

   < 赤 間(1985年)>

   抱合の男女神像栗の花

   行きちがふ負籠の女草いきれ

   紅葉のまっただ中の大学祭

 

   < 故 郷(1985年)>

   冷房のなき故郷の川の音

   白粉花黄色もあるよふるさとは

   カンナ炎ゆ恋の雀の二羽落ちて

 

   < 眼 疾(1985年)>

   眼を病みて長き通院百日紅

   眼を病めば夕辺の鵙の声赤し

   クリスマス・カクタス咲き垂る石の上

 

   < 開 拓 村(1985年)>

   みそ萩や開拓村の風淋し

   萩の風何か時間に迫られて

   みそ萩の咲き乱れけり開拓村

 

   < 柊(1985年)>

   柊の花の香りや星月夜

   柊の花の香りに年暮るる

 

   < 女 子 大 学 の 園(1985年)>

   山茶花は紅のみぞ女子の園

   金色の鯉の背に降る夏の日矢

 

   < 筑 豊 風 景(1986年)>

   冬ざれやボタ山三つ黒うすれ

   冬ざれや田んぼの中に鷺一羽

   鯉幟だらりと垂れて雨催

   風そよぎ一片落ちて芥子坊主

   鉄路沿い薔薇の紅雨赤し

   ボタ山の麓の稲穂熱きかな

   菊大輪廃鉱の駅飾りをる

   菊大輪一番ホームを常として

 

   < 幼 児(1986年)>

   独楽澄めば幼なの瞳なほ澄める

   着ぶくれて幼女と散歩犬吠ゆる

   冬の海ほころび始め嬰女笑ふ

   連翹の黄のまぶしさや入園式

   幼な子と散歩の小道花林檎

   蕗の薹遊び疲れし児のあくび

   幼児また家に持ち込む猫じゃらし

   ねこじゃらし振る幼児らにあかねさす

 

   < 北 九 州 市 近 景(1986年)>

   葉牡丹の紫つつく鳩のゐて

   鷗等の叫び鋭き冬の海

   高く咲く辛夷の花や天の声

   鉄線花蔓を離れて空の星

   恋の猫病棟の庭かけまはる

   鮮烈なダリア公園工事中

 

   < 大 学 キ ャ ン パ ス(1986年)>

   老鶯の声高らかや会議中

 

   < 父 の 忌(1986年)>

   父の忌の泰山木の花仰ぐ

   砂糖黍かじれば昔よみがへる

 

   < 母 の 家(1986年)>

   石竹やおん母の風邪快癒して

   母の住む家遠かりしはまおもて

   桔梗や小さくなりし母老いて

   桔梗の露ひとり住む母の家

   白粉花を眺めて母の老いしかな

 

   < 詩 情(1986年)>

   アマリリス中年女恋破れ

   月見草日暮れの道に犬の吠ゆ

   おしろい花遠い昔のいろに咲き

 

   < 水 槽(1986年)>

   ざりがにの死という無残夏の果て

 

   < 花(1986年)>

   柊の花こぼれ落つ石の上

   雀鳴くたび山茶花よく散れり

 

   < 妻(1986年)>

   にがうりを食うて涼しや妻の顔

   くつくつとつくだにを煮て星月夜

 

   < 小 倉 抒 情(1987年)>

   誰ひとり居ぬ公園花かんらん

   寒雀日の矢の如く土に降る

   雀らのはしゃぎおるなり冬の虹

   雪積り待合室の梅の花

   引っ越しの道々桜八分咲き

   落椿ほどの明るさ雀踏む

   鮎泳ぐ紫川の水澄みて

   ニュータウン岡の頂花すすき

 

   < 車 中 か ら(1987年)>

   凌霄花見下ろすところ汽車止まる

   大夕焼溶鉱炉の町美しく

   曼珠沙華田圃の畦道炎えてゐる

   干大根かけてある家星光る

 

   < 別 府(1987年)>

   百日白温泉町に多かりし

 

   < 中 央 図 書 館(1987年)>

   図書館を出ずればまぶし葉鶏頭

   秋の蝶木の葉の如く別れけり

   図書館裏銀杏黄葉の炎え上り

 

   < キ ャ ン パ ス 風 景(1987年)>

   蓑虫のぶら下りたる定年坂

   秋蝶の枯れ葉の如く落ちてくる

   南京櫨葉の降りしきる雨の中

 

   < 子 供(1987年)>

   春泥や気管支炎の三歳児

   リラの花幼稚園児とトランプす

   芥子散りて生れざりし児思ひをる

   百日紅ピアノの響きやさしかり

   もちの実のただ赤ければ子は欲りぬ

   除夜の鐘外で確かむ児ら二人

 

   < 父 想 ふ と き(1987年)>

   近衛兵の父想ふとき揚雲雀

   早朝の雲雀の声に目覚めゐて

   天界に皆向いてゐる花こぶし

   泰山木花大きくて鳥騒ぐ

   

   < 母 病 む(1987年)>

   公園に砂塵あり薮椿

   白鷺の苗代に立つ昼休み

   病室に近き田圃を鷺の飛ぶ

 

   < 吾 が 庭(1987年)>

   柊の下にまた萌ゆ蓬ぐさ

   紫君子蘭一本咲いて七月に

   庭の樹の枝を落とせば驟雨来る

   蟋蟀の声暗闇に澄み渡る

   蓑虫の深き眠りや小夜時雨

   柊の花のこぼれる星月夜

 

   < 妻 の 声(1987年)>

   なめくじや厨の中の妻の声

   プール開き母親らと子供ばかり

 

   < 八 幡 風 景(1987年)>

   皿倉山枯紫陽花に霧の降る

   裸婦像の下サルビアの赤々と

 

   < 母へのレクイエム(1988年)>

   病床の母に神楽の物語り

   寒鴉子供らのゐぬ公園に

   風花の舞ひをるところ野辺送り

   風花に吹かれて母の野辺送り

   冬茜山のかなたに母は逝き

   パライソに母発ち給ふ冬茜

   母逝きて白き道踏む雪月夜

   母逝きて母の歳月冬霞

   母逝きて彼岸桜に雨の降る

   母逝きて春茜雲祈りの刻

   子雀が啼くさみしきか母逝きて

   墓山へ桜並木の坂続く

   葉桜の坂を昇れば滝の音

   母逝きて星また一つ夏の天

   蓑虫のぶらさがりをるひかりかな

 

   < 守 恒 の 家 周 辺(1988年)>

   ケーキ売る店に匂ひて沈丁花

   馬酔木の花塀ごしに触れてみる

   むらさきのおこぜの怒り花薊

 

   < 女 子 の 園(1988年)>

   女子の園チューリップ赤幾百も

 

   < 日 本 語 教 育(1988年)>

   日本語を教え終へたり藤の花

 

   < 車 中 か ら の 風 景(1988年)>

   山人参花白かりし無人駅

 

   < 友へのレクイエム(1988年)>

   友逝きて向日葵の花首をたれ

   友逝きて夕べ激しき夏の雨

   蟋蟀の鳴く声しきり友逝けり

 

   < 広 島(1988年)>

   広島やハイビスカスは夏の花

   夾竹桃広島の町川の街

 

   < 眼 病(1988年)>

   眼を病みて母を想へば合歓の花

   眼を病めば百日紅の紅まばゆくて