短 歌 作 品 集
| 〜 ラ ラ ミ ー 牧 歌 〜 | ||||
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ここでは、歌誌『標土』に 1974〜1975年 に載せた114首を整理してみました。 1968〜1970年のアメリカ滞在と帰国後から1975年までの国内体験を歌にしたものです。 当時、日本では大学紛争、アメリカではベトナム戦争の泥沼化、そしてアポロ13号の 月面着陸で沸いた時代でした。1ドル360円の頃です。 〜 ラ ラ ミ ー 牧 歌 〜 < ラ ラ ミ ー の 秋 >飛燕草咲く高原のララミーに 秋の雨降り日本は遠く ララミーにサルビア紅く秋来たりフットボールに歓声のわく 白楊の高き梢は月を打つ風の高原ララミーの町 白樺の林の上に月冴えてララミー河畔に吾一人佇つ ララミー河流るるそばの居酒屋に月ふかぶかと照りてしずまる
< ラ ラ ミ ー の 冬 > 葉の落ちし箱柳の樹そびえ立ちワイオミングの白き月刺す 星冷えて化石の貝の庭園の白雪氷るララミーの寒夜 セミナー終え雪踏みしめて家路へと我は急ぎしララミーの深夜 雪積り教授宅のセミナー終え夜道を帰る友ニネマンと 海見ずに半年過ぎしララミーに缶詰にしん海匂う味
< ラ ラ ミ ー の 春 > 残雪の傍にたんぽぽ咲きいでてワイオミングに雲雀囀る 猫柳ワイオミングの山に咲き遅い春来て日本なつかし 積み上げし木材のそばたんぽぽの数多咲きいる丘は明るし ララミーの土地にたんぽぽ咲く頃は吾を慕いし西部の乙女 教会のオルガンの音風に乗り西部の朝にリラの花香る 風吹きてリラの花匂ひ西部娘礼拝に行く日曜の朝
< ラ ラ ミ ー の 夏 > ララミーにサルビア咲きて夏となり大平原は灼熱の海 鬼芥子の咲きし夏来てララミー市百年祭パレード進む 唇のひび割れ血出りし乾燥地ララミーの町も古里となる 道の傍サボテンあるを眺めつつ朝は走りぬララミーの丘 老婆からもらいしスイートピーに彼女の昔が匂う夕辺は淋し
< ワ イ オ ミ ン グ > 飛燕草オールドメイン前に咲きワイオミングの旅情あふるる 道の辺に野生向日葵咲き盛りワイオミングを車は走る 陽はぎらぎら野生向日葵咲きてあるワイオミングに荒馬駆ける 幌馬車の通りし所カー走る西部の荒野に向日葵の花 車にて西部の荒野を走る日は野生蓬どこまでも続く トラクターの乾草を刈る畑から西部の空に雉子の飛び立つ 雨上がりワイオミングの樹々匂い西部の空に虹立ち昇る 天高く水柱立つたくましき間欠泉オールド・フェイスフル
< コ ロ ラ ド > コロラドの小川は透みて虹鱒は人を恐れずゆらゆら泳ぐ コロラドの小川の底を虹鱒の泳ぐ真上に木の葉散り落つ 闇深き林の奥にも雪積り山猫歩くコロラドの山 友達の娘カリンの手をとりて菖蒲数えしコロラドの丘 コロラドの丘に雛罌粟揺れ動きカリンの髪に夕陽が映える コロラドの丘に夕陽の染まる頃母馬子馬家路に走る 富士よりも高きパイクス・ピークの上白雪に触る六月の朝
< サンタ・バーバラ > 棕櫚の樹にとまりて鳴ける油蝉サンタ・バーバラの日差の中に 夾竹桃の花紅く棕櫚の樹に蝉の鳴きたるサンタ・バーバラ 木製の十字架の下アロエの花赤く咲きゐて夏の陽高し 海風に夾竹桃の花燃えて油蝉鳴くサンタ・バーバラ 泉水に紅き睡蓮咲きてあるサンタ・バーバラの吾は旅人
< ラ ス・ベ ガ ス > バス走るネバダ砂漠は火と燃えどすっくと立ちし太きサボテン ぎらぎらと陽の照る砂漠にユッカ生えその沿道を我がバス走る ラス・ベガス暗闇降りて草叢の蟋蟀鳴けば故郷遥か
< ソ ル ト・レ イ ク 市 > 大輪の向日葵の花ユタに咲きモルモン教徒の土地栄える 雪の如大平原に散らばるはソ ル ト・レ イ クの岩塩の砂
< サ ウ ス・ダ コ タ > 金鉱の西部の町にて宿さがす暗闇の中に雨降り始む 西部の英雄ここに眠れる奥津城に六月寒く雪は降りけり
< ニ ュ ー ヨ ー ク 州 > 弥生にも視界さえぎる雪降りて轟き鈍しナイアガラの滝 真夜中に着きしニューヨーク雪踏みてホテルへ急ぐわが影薄し
< ミ シ シ ッ ピ ー 河 > 濁流のミシシッピー河の岸の辺に白きクローバーの花咲きてゐる
< イ ン デ ィ ア ナ 州 > 教会の庭にもたんぽぽ花咲きて駒鳥歌うインディアナの春 我が庭に忍冬花咲き盛り蜜を求めて蜂は飛びかう 忍冬花甘く匂いて白肌のアメリカ娘日光浴す
< 父 > カタルパの花散り果てて夏来たり父亡きことは帰国して知る 雪降りし夜の静けさ寝に入れば亡き父は夢に白く現わる 松風の騒げる丘の奥津城に父は寒夜もここに眠れる
< 初 雪 > 南天に淡き陽のさし目をやれば小鳥も寒し今朝の初雪 雪降りやピアノの音は居間にあるシクラメンの花弁落とす 夏みかん木になりしまま正月の光明るし凧泳ぐ空
< 平 尾 台 > 菜の花がところどころに咲きており雲雀囀るカルスト台地
< 広 島 > 桃の花咲きし広島のどかなれど過去の傷跡ドームに残る 菊の香の匂ひただよう慰霊碑に平和祈りて合掌する 菜の花が黄色く咲きし畑のそば河と時とがゆるく流るる 資料館また訪ねきて原爆の惨禍身に沁む戦後三十年
< 筑 豊 の 晩 春 > 五百年経つと言われし藤の木の藤の花房濡れて美し 躑躅丘登れば躑躅ふふみゐて静かな雨に鶯鳴けり
< 筑 豊 の 秋 > コスモスが夕暮れ時に揺れていて乙女らの姿夕日に紅い ボタ山の裾にコスモス咲きあふれ育てし女の心美わし 道の辺に秋のきりんそう数多あり白き衣の巡礼は行く 山肌が白くあらわる香春岳雪の如くに石灰の山
< 英 彦 山 神 社 参 道 > 干涸びし紫陽花の花打ち振ればからからと過ぎし夏の音する 残雪のそばに山茶花咲きている奉幣殿へ詣でる坂に 参道に楮と言われし白き花ビロードの如くつややかに咲く
< 山 茶 花 > 田舎駅の山茶花赤く咲きてあり吾は旅人この花も寂し 海風は荒れて吹き付け山茶花の咲きしところに残る白雪
< 天 草 > 海岸のカンナに黄の雨降る天草行きのバス待ちし折 天草のバテレン悲しやカンナ咲き赤き炎と燃えている夏
< 宮 島 > 黄葉散る小川のふちに子鹿居て我が口笛に身傾くる 鹿呼びのラッパの音は飯時と鹿集まりし安芸の宮島 紅葉する林の中は明るくて小鳥囀り我が旅続く
< 筑 豊 風 景 > つばくらめ電線に止まり囀り稲田は緑雨降りしきる ボタ山の霞みて見える道の辺に芥子の花赤く濡れて活きづく
< 紫 陽 花 > 参道に紫陽花あまたあふれ咲き森閑として鶯の声 七月に紫陽花の花咲き盛る高地の空気ひんやりとする 参道に紫陽花の花咲きあふれ石段登る我が足軽し
< ベ ゴ ニ ア > ベゴニアの白き花弁咲きあふる高原の町に我が旅続く
< 故 郷 > 故郷の蔵の白壁陽に映えて蜻蛉飛びかう昔ながらに 裏庭の青き山椒を母の摘む季節となれど父亡く寂し 柿の実の赤く熟れづき鴉鳴く故郷暖か昔ながらに
< 四 国 > 足摺に千寿菊は燃えおれど海風うけし椿はふふむ 小雨降る砂浜沿いに生えている浜豌豆の花は美し 南国の秋陽うららか浜木綿に蟹も出まわる昼の砂浜 南国の珊瑚礁に秋陽さし鱗輝くコバルトスズメ 砂浜を秋風吹きし日暮れ時海原朱く波さざめきて
< 卒 業 式 > 紅梅の匂いただよい乙女らの巣立つ良き日ぞ春風の中 止まりたる黄蝶の如く連翹の花咲き盛り我が目にまぶし ヒヤシンス咲き思いおるアメリカの蒼き目の娘らの卒業式を
< 浜 木 綿 > 浜木綿の咲きし浜辺の暑き陽に紅く焼いたる乙女らの肌 白波を切りて泳ぎし夏の日に浜木綿白し帰る道の辺
< 別 府 > 湯の町に夾竹桃の花紅く夏陽ぎらぎら木に蝉の声
< 争 い > キプロスにクーデター起こり夏の雨芙蓉の花を地に散らしけり 柘榴の実赤くはじけて秋となり中近東に停戦続く 曼珠沙華夕暮れ時は恐ろしく棒でたたけば折れて飛び散る
< 広 島 の 十 一 月 > 躑躅花縮景園に咲きてゐるこの広島の十一月に コスモスが夕暮れ時に揺れている平和公園の乙女らの霊よ 広島の平和公園また訪ね亡き友思い涙うかびぬ
< 金 沢 > 北陸の孤独は旅につきまとう古き学友一人に会えど
< 女 子 大 学 の 園 > 女子大に山茶花紅く咲き盛り風吹く朝に花弁落とす 石垣にフロックスの花あふれ咲き女子大生の声もにぎやか 女子大に躑躅花咲き乙女らの若き歓声庭に明るし 躑躅散り土暖まり乙女らの語る傍らを蜥蜴が走る 講義終えふと窓の外見ればちらほらと夾竹桃の咲き始めたり
< 川 魚 > 滝壺は清らに澄みて川魚の群泳ぎゐる初夏の季節となる
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