短 歌 作 品 集

 

          〜 欧 米 旅 愁 歌 〜 

  

  

   

   

   

   

   

   

                 

  

   

   

   

   

   

 

  

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  『短歌』誌と『週刊文春』に1976〜1988年に発表したもの 計112首を

   まとめています。この12年間に投稿した600首ほどの中から入選、特選に

   選出された112首! 私の歌集の中でも最高傑作です。

 

       〜 欧 米 旅 愁 歌 〜         

    < 米 国・ララミーへの道(1968年) >        

   沈む日のかたち追いゆくグレイハウンドバスの秋野の薄き影の淋しさ

 

   < 大 学 町 ラ ラ ミ ー(1968 〜 69 年>

   セミナー終え飲みたる酒もさめてゆくララミーの寒夜友と帰りぬ

   裸の樹々に雪の積りしララミーに二月の月光寒々と降る

   エーデルワイスの花咲けるアメリカの西部の大学農学部花壇

     

    < ワイオミング州ホットスプリングス(1968年) >

    山猫の皮はりてあるバーに入りビール飲むほど男の孤独

   剥製の山猫の目光るバーに居てビール飲む夜の外は雪降る

   

   < サ ウ ス ・ ダ コ タ(1969年) >

   六月の雪降りしきり黒々と鉱山町のカラミティ・ジェインの墓所

   サウス・ダコタ乾草畑刈りすすみ不意に啼きたつる雉子の大空

   サウス・ダコタの野生ひまわり燃える日に荒馬走る砂ぼこり立つ

  

   < サ ン タ バ ー バ ラ(1969年) >

   サボテンに巻きつきて咲く朝顔のいたましきほど異国の孤独

   

   < ス ウ ェ ー デ ン(1975年) >

   枯れ葉舞ふウプサラ駅の構内の赤きダリアよスウェーデンの花

   ウプサラの陽の翳りくるとき過ぎて城の落葉を風が転がす

   ウプサラの城の広場も肌寒く噴水が風に折れる淋しさ

   ウプサラの城の小池に野鴨群れ黄葉散り落つ夕日に映えて

   ウプサラの大学図書館出て帰る薄明の道に黄葉散り敷く

   夕迫り冷気切る如鴎鳴き黄葉散り落つ北欧の秋

   北欧の白き雲飛ぶ夕暮れを落葉の道を旅人と行く

   北欧の泉沸き出る道の辺に雀遊べり秋陽を浴びて

   秋の末バルト海の色淋し日あたるところ日かげるところ

   北欧の秋の港にたたずめば鴎の叫びにムンクを想ふ

   スウェーデンのウメオまで来て駅前に淋しきダリア見る秋の日落ちて

 

   < ド イ ツ ・ ハ イ デ ル ベ ル ク(1975年) >

   紫陽花の秋の錆色寂しかりハイデルベルクの城の坂道

   < イ タ リ ア(1975年) >           

   秋の日の暖くフィレンツェ石の神像白く輝く

   虫の声りーんりーんとひびく夜フィレンツェの街の石畳を踏む

   中世の画を思わせる乙女ありピサ斜塔への道をききたり

   地中海の空と海とオリーブ茂る自然の風景のパウンドキャントウズ

   糸杉の青々とすっくとそびえたつを背景にしてピサの斜塔

   夾竹桃色錆びておるフォーラムの古代ローマに秋の日かげる

   夾竹桃秋は錆色風に揺れ夕日のローマに翳る淋しさ

 

   < 英  国 (1975年) >

   さわさわとボート置き場に波寄せ来る秋雨煙るウィンダミア湖岸

   日曜日の午後から売られるビール買いウィンダミアの深夜に飲む

   ワーズワース眠れる墓地の日暮れ時黒き鶇のさえずり高し

   鶇鳴くグラスミアの一位の樹を夕日は染めて山に入りたり

   山あいに夕陽の落ちしグラスミア黄葉を踏めば凍てし靴裏

   冬夕べ靴裏凍ててバスを待つ時間表なきグラスミア無情   

   淋しさの色は灰色冬の色ドーセットシャーに朝霧こめて

   ハーディの生家訪ねし霧の日の晩秋の庭に咲きいしエリカ

   エイヴォンの川に白鳥寒々と泳ぎおるなり秋の陽落ちて

   ローズマリーという名は年古女の名花言葉には「思い出」とある

   秋風に罐ビール飲む淋しさよスコットランドを一人旅して

 

   < ハ ン ガ リ ー (1976年) >

   ハンガリーの夏は盛りとなりながらドナウの岸の白雛菊の花

   ドナウ河岸辺に立てる古城わき白き雛菊夏の夢見る

   中世文学に乙女を象徴の雛菊のドナウ河辺に白き妖精

   幾たびも戦火おおいしブダペスト教会の鐘たそがれに寂し

   ハンガリーの国際学会の晩餐会に「荒城の月」をききおり吾は

   昼の間に買ひしビールを宿に居てひとり飲みいるブダペストの夜

   ドナウ河辺の黄電車に乗る楽しみはハンガリー人の親しみの顔

   ドナウ河の底深く走る地下鉄に吾が乗り渡るブダよりペストに

   バッハの教会音楽重苦し学会の討論に疲れし夜は

   仏蘭西語で演ずる「カルメン」見おる吾はブダペストの野外劇場に

   白桃を深夜に食ぶる孤独感ドナウの橋は遠く輝く

   ハンガリーの森の径ゆく葬列のゆるきあゆみの重き悲しみ

   「雄牛の血」と呼ばるワインの産地の古都エーゲルにサルビアも赤

   古き寺多きエーゲルにサルビアは赤く燃えおれど街閑かなる

 

   < 英   国 (1976年) >

   バレーする乙女の如きホクシャ花ウィンダミアの夏を踊りおる

   ホクシャ花踊り子の如咲く庭に鴎の数羽舞い降りる夏

   野鶇浮くグラスミア湖に夏陽射し岸辺の葦は青く茂れる

   酷暑インヴァーネスの桃食えばしたたる汁液舗道に消ゆる

   夏陽落ちカンタベリー寺院の芝生には黒猫一匹顔をかきおる

 

   < 英 国 残 照 (1977年)>

   英国のフロスト夫人の絵葉書に数多の芥子の燃えている初夏

   英国のローズマリーの庭のピラカンサの実朱くあふる冬の夢にも

 

   < 日 本 ・ 筑 豊 点 描(1976〜8年)>

   桐の樹に鳥震え居てかさこそと樹の葉落とす寒月夜かな

   春浅き乙女椿の桃色によろいかぶとの蜂が降りくる

 

   < 城 野 ・ 吾 が 家 の 庭 (1979年)>

   さんざしの下に撒きたるパン屑に光の如く雀らは寄る

 

   < た ん ぽ ぽ (1979年)>

   たんぽぽをつかみとる如春の海あまたの手なる銀色の波

   たんぽぽを抱きたきごと波迫り果たせぬ夢と白くひきゆく

 

   < 米 国 ・ シ ア ト ル (1979年) >

   フェリーを降りたる岸辺に合歓の花シアトルの夏を絹のごと咲く

 

   < タ コ マ 富 士 (1979年) >

   真夏にも氷雪かぶるタコマ富士麓にインディアン・ペイント・ブラッシュの花

 

   < シ ュ バ ー ト 婦 人 (1979年) >

   十年ぶり訪ねしパーデュー大学の下宿の老婆すでに亡きを知る

   シュバート婦人の家は人手に渡れど山りんごの実は赤く熟れおる

 

   < パ ー デ ュ ー 大 学 (1979年) >

   キャンパスの野生りんごうれビルの谷間森閑としている中西部の大学

 

   < オ ー ス ト リ ア (1979年) >

   アルプスの氷雪かぶる山のもとエーデルワイスの白き花咲く

   氷雪の山の迫れるインスブルックのイン河沿いに草花乱る

   ごうごうと音立て流るイン河に今日は雨降る夏の白雨の

   とねりこの朱き実に降る日の光アルプバッハの空気は澄みて

 

   <スイス・ルツェルン(1979年)>

   教会の鐘高らかに鳴りわたる日曜日の朝のルツェルン

 

   < 別 府 ・ 鰐 地 獄(1980年)>

   地獄の眠たげな鰐の細き目に容赦もあらず豪雨打ちたる

 

   < 母(1980 〜1年)>

   こでまりの花白きそば母のゐて草むしりする母の髪も白く

   老いし母に会いに行きたり雨の中白き山茶花咲く山里に

   山桜の花の匂ひ乗りて来る里にありて母の髪白し

 

   < 姉( 1981年)>

   姉逝きて夜通し草にこおろぎは鳴きておるなり星白く光り

 

   < 妻(1981年)>

   石榴の花半ば硬き実となりて懐妊の妻をいたわりておる

   身重き妻がショッピングカー引きてのぼりおる坂道にコスモスゆれゐる

   身重き妻口重くなりし師走にも金魚草まだ咲きておる

  

   < 乳 母 車 (1982〜3年)>

   乳母車止め見上げたる大山木大きな白花盃の如くあり

   母愛でしドイツ鈴蘭今朝もまた乳母車の子と見ている孤独

 

   < ア メ リ カ 文 学 研 究 余 録 (1982〜3年) >

   ヴァージニア・クリム嫁しは十四歳ポー二十五歳の赤貧の秋

   ハート・クレーン三十代初め紺碧のメキシコ湾に投身自殺

 

   < 記 憶 の 祖 母 (1982年) >

   海迫り山茶花の赤夕暮れに散る寂しさは祖母の死の思い

 

   < 記 憶 の 父 (1982年)>

   金色の陽は降りやまず向日葵にむきて語りし父、近衛兵

   

   < 泰  山 木 (1984年)>

   泰山木の花盃の如天に向く父の命日雀らの鳴く

   泰山木の花大きくて天に向き父の命日雀らの鳴く

   

   < ラ イ ラ ッ ク (1987年) >

   ホイットマンの歌ひしライラックの木植えたり光る星鳴く鶇

 

   < 戦 死 の 兄 (1987年)>

   ひとの世のはかなきことも身近にて椿の落ちてしばし輝く

   椿花落ちし時のま輝けばふと想いおり戦死したる兄

 

   < 息  子 (1987年)>

   息子とチェスしておれば春夕暮れのインスブルックの公園想う

 

   < 母 ・ レ ク イ エ ム (1987〜8年)>

   山茶花の赤の咲きおる生垣を通れば遠き田舎の母想ふ

   点滴の母の拳にぎれば吾を見てかぼそき声で我が名呼びたる

   八月十五日はわれの生れ日入院の母を訪ね来ており

   入院の母を見舞えば哀しかり点滴の針を痛がりておる

   点滴の注射の腕黒ずみて母の病みたる窓辺に雨降る

   冬光に芒の影の乱れつつ入院の母の死は徐々に来る

   母逝きて寂まりの中白菊の冬はなびらに香の浮かびおる

   母逝きて「コンドルは飛んで行く」なんとなく葬送曲にきこゆる音色

   去年ここに花見し母のすでに亡く桜芽ぐむ道海につづけり

   君子蘭薄青の花庭に咲く亡母好きし花天国の色

 

   < 日 本 語 教 育 (1987年) >

   日本語を留学生らに教える朝紫陽花の花青く美し

   日本語をビルマの研修生に教えいる蝉の声激し睡き昼下がり

 

   < 日 本 語 (1988年) >

   桜見渡せる教室に留学生らに教える日本語「さくら」美し

   「清滝や波に散りこむ青松葉」留学生ら理解する日本

   日本語を留学生らに教える日紫陽花の花青く露けし

 

   < 百 日 紅(1988年)>

   庭先につくつく法師鳴いていて百日紅の花薄くなりたり

   百日紅に蝉の鳴きおる昼下がりプールの子等の声ひびきゐて